陽射しがジンジンと照りつける午後から一時間半、ブローニータイプの針穴カメラ2台とPolaroidピンホール80を持って近所を散策した。遊具がまだ新しく感じる学校の裏側の公園で、Nさんと出会った。

針穴カメラがいつの間にか数個増えている。新しい針穴カメラは、スイスのPeter Olpeさんが製作されたキットの、紙で出来ている組立式のピンホールカメラ。手に入れたのはつい最近。ブローニーフィルムを使う6×9 cm フォーマットのピンホールカメラだ。なにぶん紙製なので晴れた日しか持ち出せない。今日は良過ぎる空模様だったので、どんな写りをしてくれるのか、試撮をかねて持ち出した。

木々が大きく生い茂った公園や舗道で、蚊にかまれながら撮り始めた。Polaroidピンホール80とPeter Olpeと針穴に改造したHOLGAで数枚ずつ撮った。どのカメラも野外へ持ち出すのはかさ張るカメラだ。撮っている間やPolaroidを現像している間、五ケ所くらい蚊に咬まれた。2匹ほどパチンと叩いてつぶしたのに、手と腕ばかり咬まれてしまった。しばらくすると猛烈に痒い。掻いたら後にのこっちゃうからと、薬屋さんに薬を買いに行こうとしてる途中で、通りかかった公園。そこの手動ライドが見た事のないものだった。なんとなく手動ライドがあると、写真に撮りたくなるのだ。これは撮らねば!と自転車を停め、ライドや鉄棒など撮っていた時のこと。ひとりの女性に話しかけられた。その女性がNさんだ。

針穴写真を撮っていると、不思議そうな顏で見られることは多い。街中では大人の科学のピンホールで撮っていることが多いので、カメラの形だから何をしているのかまで尋ねられたことはない。話しかけられた時はPeter Olpeを真上に向けて、百日紅の花を撮っていた時だった。「何をしているのですか?」と尋ねられた。Nさんは私の母親より歳上に見えたから、たぶん70歳を過ぎている。私は一人で写真を撮っている時に、何をしているのかと尋ねられたことは初めてだ。不審に思って話しかけている風ではなく、一体何をしているのだろうと好奇心で声をかけていることはわかったので、「これはピンホール写真を撮っているのです」と答えた。すると、「普通のカメラとどう違うのか」と返された。「レンズではなく、針で開けた小さな穴を通して、フィルムにその像を焼き付けるのです」と、答えた。ちょうどさっき蚊に咬まれながら撮ったPolaroidピンホール80の写真がある。その写真を見せたほうがわかりやすいかなと、Nさんに「こんな写真がとれるのですよ」と見せた。
するとNさんは気に入ったらしく、自分は昔に絵を描いていて、特にフランスの印象派の絵が好きであるということ。それからフランスの映画が大好きだということ等、いろいろ話してくれた。私は
“絵が描ける方が羨ましいです。私は絵心がないので写真なのです。針穴写真は始めたばかりだけど、雰囲気のある写真が撮れるのが面白くて、こうして晴れた日にこんなことをしているのです。フランス映画は私も大好きです。アメリカよりヨーロッパに魅かれています”
と話した。するとNさんは、
“うちはこのすぐ近所なので画集を見にいらっしゃい”
と出会ったばかりの私を誘って下さる。今日はまだこれから写真を撮りたいのでと、丁重にお断りをした。なんでもNさんのところには、絵の好きな若者が出入りしているらしい。最近そのうちのひとりが個展を開いたらしい。
“貴女も個展をおやりなさいな”
と、突然そうおっしゃる。
“個展をする程のものは持ち合わせていないし、ギャラリー代も高いので”
と逃げると、お友達がギャラリーをやっているから安く借りてくれるらしい。どうやら私はNさんに気に入られてしまったようだ。こんなことは今までしたことがないのだが、私はNさんの姿を針穴写真で撮ってプレゼントしたくなった。ちょうどPolaroidピンホール80も持っている。撮らせてくださいとお願いすると、恥ずかしいからと断られたのだが、帽子がとても素敵なので後ろ姿で結構です。五〜六秒そのままで居て下さいねと、結局撮らせていただいた。その写真が一枚目の写真だ。ポラロイド写真は一枚しかないので、家でスキャンして後で差し上げてもよかったのだけど、Nさんはその写真をとても喜んでくれた。私はその嬉しそうな笑顔で充分な気持ちになって、写真はデジカメで撮って残す事にして、その写真はその場で差し上げた。他にも針穴HOLGAで一枚撮らせてもらった。
もっと私の撮った写真を見たいと言われた。胸がいっぱいになった。今度HOLGAで撮った写真をお渡しする時、写真を選んで、持っていってみようと思った。最後に住所交換をしてNさんとお別れした。黒いサマーニットと麦わら帽子が素敵な人だった。

お別れした後気づいた。あんなに痒かった蚊の虫刺され、いつの間にか治まっていた。今日は良い日だ。
コメント
素敵な出会いですね。
この出会いがtearoomさんの個展へのきっかけとなるのか!!? とっても楽しみにしてますよ〜
suguluさま
個展なんてとんでもないので、きっかけにはなりません;P
楽しみにしないでくださいましっ
今週のハリアナ 8/3(Tu)-8/16(Mo)
毎度おなじみフリーテーマのハリアナ集。
日々の針穴写真アップの際にTBを!
8月にはいって世間はすっかり夏まっさかりですね。そんな夏のハリアナなどお待ちしています。あ、テ
すごいいい出会いですね~
針穴してると(得に缶カメラ)かなり変な目でみられることがおおいです。外国人さんには「Bonb!」って笑われたこともあります・・・
ちなみにスイス製の針穴カメラ、私も持っていましたよ~。今は実家で眠っているのですが・・・(紙製&改造しすぎてぼろぼろになってしまいました(泣))
とてもいい話ですね。毎日絵に囲まれて暮している人だから、きっと針穴写真を撮っている姿を見て、何かを感じられて声を掛けてこられたのだと思います。こういう出会いは大切にしないといけません。展覧会も、個展とかじゃなく、仲間を募ったグループ展などから始めるといいかもしれませんね。
針穴写真とフランス印象派かぁ
なんとなく通じる香りがあるかも
ぼんそわー
Michiyoさま
缶カメラだったら写真を撮ってるって感じしませんものね(笑)でもBonb!はひどーい。
お互い職務質問されないよう祈りましょう ;P
スイス針穴ボロボロになっちゃいましたか〜。組み立てる前に型紙とってたら良かったっ !
atcyさま
ありがとうございます。大切にしたいと思います。
あたたかいコメントがとても嬉しかったです。
針穴写真を撮っているatcyさんの言葉ですもの。心に響きまくりです。
グループ展をされる時は、一枚分のスペース貸して下さいね:)
naoさま
しるぷぷれ
通じる部分感じられましたか。さすがギャラリー通いされているnaoさん!
綺麗な淡い色・・・キレイ!
風合いがたまらない感じですわ!
vitaさんにも針穴おすすめしたいですわん 😉
ありがと